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「野口哲哉展―野口哲哉の武者分類図鑑―」練馬区立美術館(2014年3月9日)

 今朝の日曜美術館アートシーンでとりあげていたので、混むかなー、と心配しつつ、西武線中村橋駅から、練馬区立美術館へと行ってきた*1。親子連れから若いカップル、ご年輩まで、幅広い年代が集まる館内は、ほどよい混み具合で、楽しく見ることができた。

 

公式サイト: 野口哲哉展―野口哲哉の武者分類図鑑―:練馬区公式ホームページ

 

 「武者分類図鑑」と書いて「むしゃぶるいずかん」と読む。今回の図録をかねた作品集『侍達ノ居ル処。』(以下「図録」)によると、この展示会タイトルは、月岡芳年の「芳年武者无類(よしとしむしゃぶるい)」にひっかけてつけられたそうだ。

 

 野口哲哉氏は1980年生まれと若いながらも、その作品には既に多くのコレクターがついている。広島市立大学芸術学部油絵科、同大学院を修了し、23歳ごろ「油彩画の写実的手法が模型制作のノウハウを巻き込み立体表現へと移行。段階を経て鎧兜を纏った人間の姿が立ち現われ」(図録)現在に至る。

 実際の甲冑と同じ製作と同じ手順で精巧なミニ甲冑を作り、これまた自作の人形(樹脂製)に着せる。絵画も当然のように巧みで、甲冑を纏った人形と作家自身による解説文で重層的に偽史が語られていく。

 

会場の様子

会場風景の一部はyoutubeで見られる。


練馬区立美術館 野口哲哉展 ― 野口哲哉の武者分類図鑑 ― - YouTube

 ポスターやチラシの写真からは大きな像を思い浮かべるが、実際には10数センチから50センチ程度の高さの像がほとんどで、思っていたよりぐっと小さい。だが、甲冑を着た人間のプロポーションや姿勢は現代人のそれのように思われ、表情も大学構内、駅のホームや公園のベンチで見かけるような顔つきばかり。見ていると「いたね、こういう人」という気持ちになってしまう。

また、画賛、ミニチュアサイズの兜に付随する箱に貼られた題箋やラベル、ときには過剰なくらいのキャプションでさまざまな偽の歴史が裏付けられるように演出される。

 

偽史と現実の区別が混乱してくる

そして、今回の展覧会では、作家が制作するのに参考にした、実物の鎧兜(「鉄五枚桶側胴具足」や「金小札色々威二枚胴具足烏帽子形兜付」など)や甲冑を描いた絵画(「十二類合戦絵巻」(東京国立博物館蔵模本のこのあたり)や「日御崎神社蔵什物図」(狩野晴川院養信・狩野伊川院栄信が「白糸威大鎧」を模写した部分。東京国立博物館蔵))などの古美術品も展示された。流れに沿って並べられると、もしやこの奇抜な 兜や保存状態のよい巻子も野口作品か?と混乱してきた。

 古美術、参考資料(部品ほか制作過程、スケッチ類、作家秘蔵のプラモデル、パンフレットなど)も含めると100点超の展覧会であった。プラモデルのザク(あれ、ズゴックだったかな)を見て、あ、今日はザクの日(3月9日)だったな、と思い出したりした。

 

 古美術は巡回先のアサヒビール大山崎山荘美術館では展示しないそうなので、行ける人は練馬へ行かれるとよいと思う。特に、自分で甲冑つくって自分で着て写真におさまっちゃう小堀鞆音(こぼりともと、1864-1931)の絵画と鎧は必見。

 

あふれる知識とたしかな技術で、奇想天外な設定を作品にする

 現代美術とはいえ美術史を知らないでアイデアだけで制作する作家はありえん、うすっぺらくて、ということを以前どこかできいたのだが、だとすると、この作家の場合はどうだろう。甲冑の知識と古美術の表現をよく知った上で、再現できる技術を持っている。ファンタジー作家なら表に出ない部分にも作り込まれた設定をもって奇想天外なストーリーを書いているようなものだ。こんだけ洒脱に、しかも数を繰り出せるなら、これからも売れ続けていくんだろうなあ。

 

 日本中世史の人にも感想をきいてみたい、そんな展覧会だった。

 

参考:

野口哲哉 - Gallery Gyokuei

野口哲哉 : ギャラリー玉英ブログ 銀座・東京

【月曜日連載】ARTYOURS 新アート論 わびさび×拡張=野口哲哉さん「境目をとりはずす」第一回 | ARTYOURS

 

入場料:一般 500円(たいへんお買い得だと思います)

鑑賞所要時間:2時間

図録:購入 2,500円+税(野口哲哉ノ作品集 「侍達ノ居ル処。」 | 青幻舎 SEIGENSHA Art Publishing, Inc.

おうちに持って帰りたい:「侍がサントリーへ行く」(ただしすでに個人蔵……)

買えなくて残念:「極上鉛人型合金 ロケットマン」「極上鉛人型合金 ホバリングマン」作家による手彩色製品は二種類とも売り切れ。

その根性はなくてもいいです……。買えた方は自慢して下さい。

*1:チラシ・チケットはおろか美術館ニュースの交通案内に「都心からも意外に近い!」と書かれていた。板橋区立美術館の「不便でゴメン」と差別化をはかっているのに違いない。