企画展「かつて浅草にあったコレクションたち 浅草文庫と台東図書館」台東区立中央図書館

 

 1月25日、曇り空の鴬谷駅南口改札から左側に曲がって、言問通りを進むこと約15分。目的は、企画展「かつて浅草にあったコレクションたち 浅草文庫と台東図書館」(台東区立中央図書館、2013年12月20日から2014年3月19日(木))と講演会「東京国立博物館の蔵書の流れと浅草文庫」である。

 

 台東区立中央図書館の2階郷土・資料調査室の一角に2012年11月、「浅草文庫コーナー」が開設された。ここには「浅草文庫」の鬼瓦を木で模して作られた看板がある。もともとこの看板は浅草観光連盟が浅草文庫(後述)を作った際に作られたもの。官製浅草文庫(これも後述)の蔵書印に刻まれた太政大臣三条実美の筆蹟が瓦にも写され、さらにその瓦が模してあるのだという。

 今回の展示会は、この浅草文庫コーナーのとなりにある「ゆかりの文学コーナー」で展示用書架2連と壁面ガラスケースを使って行われている*1

 展示は時代別に3部構成。

  1. 江戸時代、明治時代の浅草文庫
  2. 昭和〜平成時代の浅草文庫
  3. 台東図書館

 

1.  江戸時代、明治時代の浅草文庫

 「浅草文庫」と名のついた文庫は、江戸時代から明治時代にかけて複数あるが、ほとんどは個人蔵書家による民間運営のため、一代限りで消滅した。

  1. 板坂卜斎による浅草文庫(1578-1655)*2
  2. 堀田正盛による浅草文庫(1608-1651)
  3. 木村重助(幕末の御家人)による浅草文庫
  4. 官立図書館浅草文庫(1874-1881)
  5. 大槻如電による浅草文庫(1845-1931)

 江戸時代の浅草文庫に関しては『日本百科大辞典』が最も詳しく、4点の蔵書印が紹介されているが、『日本百科大辞典』では木村重助の蔵書印として紹介されている「浅艸文庫」長方印は、図版(国立国会図書館デジタルコレクション - 紀伊國名所圖會 [初]・2編6巻, 3編6巻. 後編(二之巻) 浅草文庫印」の項によると、板坂卜斎の「浅艸文庫」長方印であることがわかる。

 

 1月25日の講演会「東京国立博物館の蔵書の流れと浅草文庫」のお題にある浅草文庫とは、明治7年から14年まで浅草米蔵跡にあった文庫のことである。

展示パネル「明治時代の浅草文庫」から引用:

 明治7年、湯島聖堂にあった初めての公立図書館「書籍館(しょじゃくかん)」を、浅草米蔵跡に移し、同14年の上野公園移転まで一般に閲覧させました。この間の蔵書印「浅草文庫」が捺された書物は、東京国立博物館国立公文書館に遺されています。

 

 書籍館がなぜ「浅草文庫」になったのか、どんな資料があったのか、などは講演会で佐々木利和先生によって語られている。


2.  昭和〜平成時代の浅草文庫

 メモとってくるんだった。恐ろしい程記憶がとんでいる。現在の台東区立中央図書館にある「浅草文庫コーナー」について、だったと思う。

 現在の台東区立中央図書館にある「浅草文庫コーナー」の資料は、江戸・明治期の浅草文庫のそれとは別のものである。昭和52年(1977)に浅草観光連盟が設立し、のち台東区に寄贈されたいわば新しい浅草文庫の所蔵資料で、演芸関係の図書が多く集まっているのが特徴である*3

#レファレンス協同データベースの特別コレクションにもデータがあったらいいのに

 

郷土・資料調査室:台東区立図書館 より引用:

浅草文庫の資料は、浅草の歴史文化を反映し、「芝居」「演芸」など芸能ジャンルに関するものが多く集まっているのが特徴的です。松竹歌劇団をはじめとする国際劇場で開催された演劇やコンサートのプログラム、歌舞伎の筋書など、今までの郷土資料とは一味違う資料もございます。

 

浅草観光連盟が所蔵していた「浅草文庫」の蔵書が台東区に寄贈されました 台東区ホームページ より引用:

 このような経緯のなか、昭和52年11月、浅草観光連盟が、明治期の図書館の意志を引き継ぐことを目的として、旧東京電力浅草サービスステーション内に、「浅草文庫」として開設しました。 平成12年7月テプコ浅草館開館に伴い、当館2階に移転し、平成23年3月11日の震災後閉鎖するまで、閲覧のみの文庫として、開設していましたが、5月31日テプコ浅草館閉館により、「浅草文庫」も閉館されました。 このたび、浅草観光連盟の所蔵されていた「浅草文庫」の蔵書が、12月1日午後4時、台東区に寄贈されることとなりました。

 

 昭和52年(1977)新浅草文庫設立趣意書、浅草館(平成12年(2000))リーフレット等を展示。閉館した施設のリーフレットの類は再び入手することが難しいので、このように図書館で郷土資料としてきちんと整理されているのは素晴らしいと思う。


3. 台東図書館

 昭和36年(1961)東京都台東区立図書館設置条例で設置が定められ*4、翌1962年1月23日に東京都台東区三筋に台東図書館が開館する。やがて図書館報が刊行されるわけだが、ことば使いを新鮮に感じて読んだ。

展示資料. 台東区議会議長 長沼金次「台東図書館報の創刊にあたって」台東区図書館報第1号(昭和37年(1967))より引用:

 このたび”民衆とともにある図書館”を標榜する台東図書館が、区民の皆さんとの心のきずなとして図書館報を発行する運びとなりましたことは、ご同慶にたえない次第であり、今後の発展を希望してやまないものであります。

 

 また、恥ずかしながら知らなかったのだが、台東区は自動車文庫を運行していた(都心部でありながらという自負もあった?)。

展示資料.「自動車文庫ひかり号特集」台東としょかん19号(昭和43年(1968)3月31日発行)より引用:

 従来自動車文庫は、農村地帯の図書館活動ということになっておりますが、本区ではこの館界の常識を破り、都心部におけるサービス網の充実という面から実施いたしました。

区内の公園、お寺等の24指定配本所(中略)、1968年3月現在自動車文庫団体数303、2121名の登録利用者を見るに至っております。

  その後、台東区三筋にあった台東図書館は閉館し、平成13年(2001)9月26日、現在地に移転開館する。同時に池波正太郎記念文庫を1階に開設した。

 

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 展示コーナーはコンパクトで、一見5分で見終えてしまいそうだが、書籍だけでなく、記録写真、平面図、パンフレット、しおり、貸出券などの現物、パネルやデジタルフォトフレームも活用していて、この分野に関心のある人だと時間がかかりそう。実際、講演会に来ていた人たちが結構な時間を使っていたようだ。

 アンケート記入台に、「台東図書館・浅草図書館の思い出」として、本を開いた形のふせんが用意されており、掲示された紙に展示パート別に貼るようになっていた。「1月17日以降順次更新します」とあったが、更新ってここにふせんを貼ることだろうか。それとも、ふせんの内容を展示替えに活かすということだろうか。

 


入場料:無料
図録:なし
展示リスト:あり(展示品リストと書籍リストをA4用紙に両面印刷)
鑑賞所要時間:50分

*1:改めて展示リストを見たら2階にも「台東図書館影絵用舞台」が出ていたのに気付いた。これからいらっしゃる方は1階も要チェック

*2:図版(元禄10年(1697)分間江戸図)浅草観音堂と富士権現の間に板坂卜斎の文字あり

*3:平野 恵. ウチの図書館お宝紹介!(第129回) 台東区立中央図書館 浅草文庫図書館雑誌. 107(6)=1075:2013.6. 356-357

*4:同条例は廃止され、現在は、東京都台東区生涯学習センター条例(平成13年6月20日条例第55号)で定められている