私はまだグンマを知らない「山口晃展 画業ほぼ総覧」群馬県立館林美術館(後編)

 

前編からの続き)

 

  

○ひろがる山愚痴屋的世界

書籍、CDジャケットなどの原画等を壁面に展示。『親鸞』シリーズは恵信の歌掲載時になぜ切り抜いておかなかった自分よ*1、と後悔しており、昨年の横浜そごうでの展示*2につづき、ここでもじっくり見られて満足。それに、横浜よりも館林の方が観客の反応がいい。槙原敬之LIFE IN DOWNTOWN」の歌詞カード、CDジャケットの原画は思っていた以上に小さく細密な表現。また、WORLD ORDER「2012」の歌詞カードとメインジャケット原画(須藤元気氏蔵)の水彩の繊細さは彼らの緻密な動きをシャープにやわらかく見せる。

 

○山愚痴屋澱(オリ)エンナーレ

 第2回から第4回までの澱エンナーレ出展作品から8点。横浜そごうで調子の悪かった「リヒターシステム」*3はここでは絶好調だった。画伯は自分のフィルターを通じてあれこれ出せる現代作家なんだよなー。なのにオファーは大和絵的なものが多そうだからこんな噴出が(もっとやって

 

○眺望絶佳

 日本橋三越のポスターなど、おなじみの鳥瞰図あれこれ。くたびれてきた観客もまた元気になっていたような気がする。個人的には現物を初めて見た「倉敷金比羅圖(くらしきことひらず)」(2005年 油彩、水彩、墨・カンヴァス 大原美術館蔵)が、ケースなしで屏風状に立てて展示してあり、かなり近い位置で描写を確認できたことがありがたい。

○百人百態

 最後の展示室4に「すずしろ日記」「すずしろ日記洋行編」「千体佛造立乃圖」など。

 

 

偽史和人伝中茸取物語

 さいごの2部、「眺望絶佳」から「百人百態」に向かう通路の壁に展示された「偽史和人伝中茸取物語(ぎしわじんでんのうちたけとりものがたり)」で、この地ならではの体験をした。

 赤い布を張ったボードに、かるたとおぼしき絵札と読み札が一組ずつ並べられており、主人公である「命(みこと)」(もっと長い名前だったのにメモがとれなかった。豊城入彦命か?)がお告げにより三人の姉妹を訪ねていき、数々の冒険を経て神の鳥を得る…という上野国の成立を物語る作品。

 が、どうもおかしい。絵札と読札の大きさが微妙にずれているし、読札はあきらかに画伯の手書きなのに、絵札は複数の描き手と思われる*4画風で印刷されたもの。凝ってるなー、と思って必死に物語を追っていると、右からきたご婦人がたが「あらこれ上手ねー」「絵も自分で描いてるのね」(意訳)と話している。思わず「あ、あの、この絵札、上毛かるたじゃないんですか」と尋ねると、「うん、少なくとも私がやっていたのはこの絵じゃなかった」。ええ?!絵札も画伯なの?!*5 *6 *7*8 

 そんな私にはちらりともせず、次々やってくる人たちはみな絵札に反応している。中学生女子グループは「れ、れきしになだかい?」「(ニヤリ)にったよしさだ!」と答えあい、母親は幼い姉妹に向かって「よ、よのちりあらうしまおんせーん!」「へ、へいわのつかい、にいじまじょー…って、あははー、どんだけおぼえてんだわたしー」と照れながらも自慢げに語り、肝心の読み札が語る上野国成立記はさっと流して最後の展示室へとわたって行く。

 だが自分ひとり、あの嬉しさに、参加できない。

 

 そう、これは群馬県民とそうでない人を分ける通路だったのだ!

 

 恐るべしグンマ。噂には聞いていたが、あれはかるたへの愛とかそんなんじゃなくて、深いところにしみこんでいたものが即座に反応して出てきちゃった感じだったぞ*9

 本作品は展覧会開始時期には製作中だったそうで、完全な形で公開されたのは会期途中からだったらしい。展覧会に行くのは、混むし前期の目玉は見逃すしでいいことない、と思っていたけれど、この風景が見られてよかった*10

 

 そして、私はまだグンマを知らない。

 

入場料:

一般800円

図録購入:

予約済 (1600円+送料340円)3月に送られてくるらしいが、どうだろう。当初12月発売予定だったらしいし

おうちにもってかえりたい:

「神鳥圖(しんちょうず)」(1996年 油彩・板 庄屋久平 籾山順二氏蔵)

中西夏之氏公開制作之圖」(2003年 油彩・カンヴァス)  何度見ても好きだ

「ヤマグチシステム」(2013年 アクリル板、和紙、群馬県立館林美術館フライヤー) 金雲を貼ったアクリル板をのせると展覧会チラシが山口晃風に見えるというライフハック

本日のシカつやつや:

「大鹿」フランソワ・ポンポン(1929年 ブロンズ 鋳造は1975年頃)[彫刻家のアトリエ(別館)]フランソワ・ポンポン関連資料より-シロクマをめぐって-

鑑賞所要時間:

約2時間30分(ほか常設展に30分)

 

 

 

*1:当時勝手に曲つけて歌った

*2:そごう美術館「山口晃展 ~付り澱エンナーレ 老若男女ご覧あれ~」(2013年4月20日(土)~5月19日(日))http://www2.sogo-gogo.com/common/museum/archives/13/0420_yamaguchi/

*3:山口晃展 ~付り澱エンナーレ 老若男女ご覧あれ~ | トピックス | 美術館・博物館・イベント・展覧会 [インターネットミュージアム]に写真あり

*4:旧版・新版ともに小見辰男氏おひとりでした。申し訳ありません

*5:あとで調べたら、現在の版は1968(昭和43)年に新版となって発行されたもので、先のご婦人がたが親しんでいたのは旧版と思われる

*6:原口 美貴子.  山口 幸男.   「上毛かるた」の札の分析--社会科郷土学習の基礎資料として.  群馬大学教育学部紀要. 人文・社会科学編..  (通号 45) 1996. 197~214 ISSN 0386-4294 http://hdl.handle.net/10087/755

*7:山口 幸男.  原口 美貴子.   上毛かるた50周年記念フォーラムの記録--群馬の宝,日本一の上毛かるた.  群馬大学教育学部紀要. 人文・社会科学編..  (通号 46) 1997. 221~249 ISSN 0386-4294 http://hdl.handle.net/10087/761

*8:2013年12月10日から2014年2月26日まで群馬県立図書館で「上毛かるたに関する資料展示」開催中(http://www.library.pref.gunma.jp/?page_id=220)。 展示リスト(PDF)によると同館所蔵の旧版も展示されている

*9:ウェブマンガ「お前はまだグンマを知らない」第6話 (http://kurage-bunch.com/manga/gunma/06/)を最初読んだとき、大げさじゃないかと思ったが、この通路を経て、このぐらい大げさに描かないと笑いにつなげられないのだと悟った

*10:午後は向かい風が吹いてきて、多々良駅へと歩く間、やたらと涙が出た。辛いことがあったからじゃない。冬の北関東だからだ